生体統御医学

麻酔・集中治療医学

臨床の疑問を解決したいという探究心を研究の原動力に、only oneを世界に届ける
  • まず、麻酔科医の原点である臨床の現場を常に大切にし、臨床で生じた疑問を解決したいという探究心を常に持ち続ける
  • 阪大発の「治療法」・「技術」を世界に届けることを目標に掲げ、以下3つの研究を行う
    1. 肺傷害ゼロを目指す究極の呼吸生理学研究
    2. 周術期神経認知障害ゼロを目指す神経科学研究
    3. 慢性疼痛の機序解明につながる先駆的研究
教授 吉田 健史
生体統御医学講座 麻酔・集中治療医学
当教室は、手術麻酔・集中治療・疼痛といった麻酔科全体の領域を学問の対象とする大麻酔科主義を貫いてきた伝統ある教室です。高い専門性と学問性を兼ね備えた麻酔科医を多く輩出し、常に麻酔集中治療の臨床・研究を牽引してきました。これからも阪大発の革新的な技術・治療法を世界に届けて参ります。

本学麻酔集中治療医学教室にしかできない研究で、これからも世界をリードする

1. 肺生理学研究グループ
・ 肺傷害リスクを可視化するLung stress mapping法の確立と臨床応用への挑戦
我々は、肺生理学と画像解析学との融合による斬新なアプローチで、全肺領域に存在するLung stress の膨大な情報を可視化させる技術- Lung stress mappingの確立に取り組んでいます。これを使えば、肺傷害リスク領域の「量」及び「部位・パターン」を評価・可視化できるようになります(下図)。さらに人工知能を用いて、肺傷害リスク領域の評価から予後予測を行うことで、リスク大の患者群を抽出し、「先制的」個別化医療の提供を可能にします。最終目標は、Lung stress mappingを搭載した次世代型人工呼吸器を開発し、リスク領域自動軽減システムにより患者さんに提供する換気条件を24時間365日自動で最適化することで、「いつでも」「どこでも」「だれでも」個別化医療の提供が可能にすることです。「人工呼吸器管理は経験に基づく熟練の技」という既成概念を破壊し、ARDS治療成績向上の革新的なブレイクスルーとなることが期待できます。

・自発呼吸関連肺傷害のメカニズム解明と包括的治療法の確立
横隔膜を用いた呼吸様式は生理的であるため、人工呼吸管理中に自発呼吸の温存が推奨されていました。しかし、呼吸努力に依存して肺傷害が悪化する現象を発見し、「自発呼吸関連肺傷害」という当教室発の新たな概念を切り拓きました。10年以上に渡る我々の一貫した研究により、ARDS (急性呼吸窮迫症候群)に対する人工呼吸管理に大きな変革をもたらしました。「自発呼吸は常に温存すべき」という人工呼吸管理の常識を破壊し、呼吸努力の強いARDSに対して筋弛緩剤投与・高PEEP・腹臥位などによる呼吸努力の消失・抑制が標準治療となりました。これからさらに、自発呼吸関連肺傷害のメカニズム解明に研究を進めていき、革新的な治療法の確立を目指します。


2. 神経科学研究グループ

・ 周術期神経認知障害発症メカニズムの解明
術後せん妄は、手術・麻酔を契機に生じる周術期神経認知障害であり、高齢患者において最も頻度の高い術後合併症です。さらに、術後せん妄発症は死亡率増加など長期予後不良とも関連しており、その発症予測・予防・治療法の確立が急務です。我々は、手術・麻酔後に前頭前皮質において「シナプス伝達の低下」(下図左)や海馬での「脳微小血管内皮細胞障害」(下図右)が生じることを発見しました。これらの観点からさらに詳細な術後せん妄発症メカニズムの解明や術後せん妄発症を予測するためのバイオマーカーの発見を目指して、基礎研究・臨床研究を行っています。

3. 疼痛科学研究グループ
・ 末梢神経パルス高周波法の鎮痛メカニズムの解明
末梢神経パルス高周波法は、難治性の神経障害性疼痛や関節痛などに対して神経障害を起こさずに長期の鎮痛を得ることができる低侵襲治療法として世界的に注目されています。しかし、その鎮痛機序はほとんど明らかにされていません。我々は、この将来性ある治療法の質の向上と最適化を目指し、動物実験による鎮痛機序の解明に取り組んでいます。これまでに、末梢及び脊髄レベルでの作用機序について炎症性疼痛モデルマウスを用いた研究を行い、痛覚神経系への作用のみならず末梢組織の炎症を改善するという新知見を得ることが出来ました。慢性疼痛治療におけるさらなるブレイクスルーを目指して動物実験と臨床研究に取り組んでいます。